不器用ハートにドクターのメス
第一関門。まずは、人工心肺への移行だ。
人工心肺とは、心臓と肺の代わりに、血液の中の二酸化炭素をとりだし、酸素を入れて再び体に血液を戻す装置のことを指す。
人工心肺に移行さえしてしまえば、心臓に血液が流れ込むことがなくなり、心破裂して即死、という事態は免れることができる。
「遮断するぞ」
「はいっ!」
まずは心臓へ向かう血管を遮断鉗子で挟み、血液を止める。
血液遮断。ドクンドクンと大きく波打っていた心臓が、やがて動きを止める。
心停止、確認。神崎の手は、止まることなく真由美に向かって差し出される。
「糸」
「はい」
真由美の手から神崎の手に、糸がつけられた針がわたる。
神崎は目にも留まらぬ鮮やかな手技で、血管にその針を差し込むと、差し込んだ箇所から円形を縫っていく。
縫い終えるやいなや、その中心に、即座に刺し込まれるメス。血液が、勢いよく飛び散る。
そこに間髪入れずに脱血管を入れ込み、糸をしめる。
血液の返りを確認し、エアーが入らないよう、人工心肺のチューブにつなぐ。
「ポンプオン!!」
神崎の言葉を皮切りに、臨床工学技士が動く。
――人工心肺に、のった。
九死に一生は、ひとまず乗り越えた。
真由美はここでやっと、はっと短く息をつくことができた。オペ開始から今まで、まともに呼吸することを忘れていた。