不器用ハートにドクターのメス
3時間20分という、上行大動脈置換術にしては早い時間で、血管縫合までが無事終了した。
執刀医である神崎が抜け、助手のドクターに代わるとほぼ同時に、真由美たちも日勤のオペ看と交代する。
交代要員が来たということはすなわち、すでに午前8時を回っているということだ。
真由美たちがオペ室にこもっている間に、夜から朝へ、世界は色を変えていた。
「あーっ、疲れたぁーっ!!」
一緒にオペ室を出るやいなや、山下が大きなボリュームの声で言い放った。
手を組んで天井に着き上げ、うんっと大きな伸びを披露してみせる。
そんな演技がかった大げさな動作が、さきほどまでの緊迫感を、少し遠くに押しやってくれる。
「お疲れ福原さん。初夜勤で心オペ、頑張ったねー!緊張したでしょ!」
山下は手を組み合わせた状態のまま体をひねり、後ろにいる真由美に声をかける。
「は、はい……」
「わ、足すんごい震えてんじゃん」
「うあ、すみません……」
「あはは、謝らなくていいけど」
……本当に、終わったんだ。
山下と戯れの会話をしながら、異世界から急に連れ戻されたような、時差ボケしているような不思議な感覚に襲われながら、真由美はやっと、オペが終わったことを認識する。
オペについている間は、必死だった。
無我夢中だった。集中しすぎて、時間の感覚がわからなかった。
いつの間にか朝を迎えていたことが、なんだか信じられない。