不器用ハートにドクターのメス

まだ頭が沸騰しているようで、興奮が抜けなかった。

脚が震えているのだって、言われるまで気づかなかった。

カクカクと小刻みに揺れる自分の脚を見つめ、そして真由美は、全身が、まるで夕立にでもあったかのように、汗でぐっしょり濡れていることにも気づく。

けれど今は、夕方ではない。窓の外に広がっているのは、柔らかい朝の光景だ。

空の青は、水色の上に水彩絵の具の白を何度も塗り重ねたように薄く淡く、決して強くない光は、ゆるやかなベールのごとく、窓から入り込んでいる。

本来肌色をしている廊下は、薄化粧を施した風に、妙に白っぽく、真由美の目にはうつった。


……終わった。ちゃんと、努めることができたんだ。


そんな朝の光景を瞳に入れながら、真由美はもう一度、改めて実感する。

けれど、なぜかいつものように、ホッと息をつくことができない。

脱力することができない。普段なら、オペ室を出るととたんに安心して疲労感に襲われるのだが、今日は違っている。

ドキドキが、続いていた。

オペ真っ最中の、緊張によるものとはまた違うドキドキだ。

心臓の鼓動が体中に響いて、真由美はその場から、動き出すことができなかった。


「でも、なかなかないよ。初夜勤で大動脈解離とかーー」


そんな真由美に気づかず、山下はほがらかな声で言うと、更衣室に向かって歩き始める。


「福原さん引きが強いね……ってあれ?帰らないの?」

「……あ」

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