不器用ハートにドクターのメス
振り返って、不思議そうな顔をする山下。
真由美は口をパクパクと開いたり閉じたりしたあと、まとまらない気持ちを、おずおずと口にした。
「なんか、わたしまだ、落ち着かないっていうか、ド、ドキドキしてまして……ちょっと散歩してから帰ろうかなって……」
「ぶはっ!!」
真由美の散歩したい発言に、山下は思いっきり遠慮なく吹き出した。
左右不均等に顔をゆるめ、ふははと笑いながら言う。
「あーもー、ほんっと福原さんキャラ崩壊。いい意味でだけど」
「す、すみません……」
「だーから、いい意味だって!!うん、了解。気が済むまで散歩しておいで」
優しくそう言ってくれた先輩に、真由美は深く感謝して、その分深く、頭を下げた。
初夜勤。初緊急オペ。山下の存在は、本当に心強かった。
万が一の時は山下がフォローに回ってくれるという状況だったからこそ、自分は少しだけ落ち着いて器械出しに取り組めたのだと、真由美はしみじみと思う。
一人になった真由美は、ゆったりと頭を持ち上げ、自分の立つ廊下を見つめる。
日勤のオペ看は、もうすでに全員が持ち場についたらしく、辺りに人の姿はない。
騒がしさもない。まるで、世界に一人取り残されたみたいだと、真由美は思う。
そっと、右手で胸のあたりに触れる。
少しだけ指先に力が入り、制服にシワが寄る。
……この、胸にあるものはなんだろう。
未だ冷めやらぬ興奮に、真由美は考えをめぐらせる。