不器用ハートにドクターのメス
鉄製の扉を押し開け、一歩外へと踏み出した瞬間、真由美の体は、強めの風にあおられた。
その風は煙の匂いを含んでおり、会いたいと思い浮かべている人物がすぐそばにいるということを、真由美に知らせてくれる。
『オペのあとは吸いたくなんだよ』
そう言っていたから、ここだと思った。
ここに神崎がいるという確信が、真由美の中にあった。
意を決して、真由美は扉から離れる。
扉が音を立ててしまるのと、真由美が目下に神崎の後ろ頭を見つけたのは、ほとんど同時だった。
白衣をまとった神崎は、前にここに来たときと同じように、数段おりた位置の階段に、腰を下ろしていた。
バタン、という音に反応した神崎が、後ろを振り返る。
階上に真由美の姿を認めた神崎は、目を見開き、くちびるをわずかに上下させた。
「お疲れ、さまです……」
体の左右でぎゅっと拳を作り、真由美は張り詰めた声で、そう言った。
神崎は、一瞬迷うような素振りを見せたあと、息を吐き、再度真由美を見上げた。
「……おつかれ」
低くかすれた声が、神崎の口からこぼれる。
自分に向けられたその声だけで、真由美は瞳を揺らした。
ずっと聞きたかった声だと、そう思った。
真由美が隣へ来ることを許可するように、神崎は、少し右にずれて座り直す。
その動作の意図を汲み取った真由美は、戸惑いながら、ゆっくりと階段を下りていく。
「失礼します……」
「……おー」
返事を聞いてから、真由美は思い切って、神崎の隣に座り込んだ。