不器用ハートにドクターのメス
真由美の回答に、神崎は一瞬考える素振りを見せたあと、「ああ、外回りついてたやつな。名前誰だっけ」と尋ねた。
「山下さんです」
「あー、そんなんだったな」
そう言って、神崎は少し表情をゆるめる。
神崎と当たり前のように会話ができ始めたことが夢のようで、真由美は何度も、自分の頬をつねりたくなってしまう。
真由美が隣に座ってから、神崎は、タバコを口に運んでいなかった。
長く伸びた灰が、ぽろりと落下する。
新たに現れたタバコの断面から立ち上る白く細い煙は、空の雲に引き寄せられるように、真っ直ぐ、上へ上へとのぼっていく。
「……先生」
「……ん?」
「わたし……この夜勤で、初めてまともに、山下さんと話したんです」
その煙を見つめながら、真由美はゆっくりと、話し出した。
言いたいことは、隠さない。ちゃんと、口に出して言おう。
そう念じつつ、自分の胸の内にあった気持ちを、吐露していく。
「それまでも、全く話さなかったわけじゃないんですけど……でも、業務連絡くらいしか、したことなくて。でも今回、初めて、仕事以外の話をすることができました」
神崎は、黙って真由美の話を聞いていた。
心地よい朝の風が、二人の間をすり抜けていく。
「……先生の、おかげです」
その風にさらわれてしまうことのないよう、できるだけしっかり張った声で、真由美は言った。