不器用ハートにドクターのメス
2年間の研修医時代を経て執刀医という選択したのは、もちろんオペをしたいというのが理由だが……もう一つ理由を挙げるとすれば、患者との会話を極力避けたいからだった。
先ほどの老婦人の件でも、目の前で転んでいれば助け起こすことはするだろうが、そこで必要以上に仲良くなったり、その後わざわざ話を聞きに、中庭に降りたりはしない。
つい先ほどまで、神崎は、真由美には自分と似ているところがあると思っていた。
他人と群れないところや、他者より上に行こうという出世欲があるところ。
けれど、決定的な違いが明確になった今、再度人物像があやふやになってしまう。
あいつは、人と関わるのが好きなのか?
ならばなぜ、いつも一人でいるのだろうか?
いったん興味を抱いた物事に関してはとことん突き止めたい神崎にとって、解けない問題があるというのは、どうも気持ちが悪く不本意なことだ。
それでも仕事のときは、内にあるもやもやをいったん全て捨て、切り替えて集中できるところが、神崎の秀でた長所なのであった。
「神崎先生、急患です!!」
午後4時すぎ。すでに2件のオペを終えた神崎の元に、緊急の患者が飛び込んできた。
78歳、男性。迅速に行われた検査の結果、心臓に栄養を与えるための血管、冠動脈が9割以上狭窄しており、心不全を引き起こしていることが判明した。
冠動脈が一部でも完全に詰まり、心筋梗塞に陥ってしまうと患者の命はない。
患者がストレッチャーで運び込まれるときには、器械もろもろの準備は整っていた。