不器用ハートにドクターのメス
しかし、神崎は今回、心臓を動かしたまま行う方法ーーミッド・キャブを選択していた。患者が高齢であるため、体力を考えての判断だ。
高齢や重度の患者には、この方法をとることがあり、九十年代からは急速に浸透している。
患者にとっては、心臓を止めてしまうよりも体の負担が少なく、術後の合併症などのリスクも抑えられるが……その分オペの難易度は高くなるため、医師には逆に負担のかかる手術方法だ。
心臓の表面を大きめの磁石のような器械で押さえ、採取した血管を手早く縫い合わせる。
計、8針。縫ったところで、血管をはさんでいた鉗子をはずし、血流を開始させる。
つないだ血管に、血液が正常に流れているか。それをエコーで確認し、神崎はうなずく。
音は正常。漏れもない。
……一発だ。
血管が漏れてこないということは、つまり先ほどの縫合が一点の抜かりなく完了していることを示す。
漏れの修正があるかないかで、オペ時間には大きく差が出てくる。終了時間は、1秒でも速い方がいい。
「大伏在静脈、採取」
1本目が完了しても、神崎たちに息つく暇はない。
2本目の、太股の内側にある静脈を素早く採取し、その血管で、大動脈と心臓の裏側を流れる血管を結びにかかる。
針を心臓の真横から通し、鼓動を続ける心臓に、神崎は、ためらうことなく血管を縫いつけていく。
2本目も、完璧な出来だった。
一度の修正もなく、途中で患者の血圧が下がることもなく……バイパス手術は、開始から2時間半かからずで完了した。