不器用ハートにドクターのメス
「お疲れ」
「お疲れさまでーす」
飛び交うのどかな声が、緊迫の空間の終わりを実感させる。
元々予定されていたオペであれば、病室で待つ親族に状態を説明しに行かねばならないのだが、緊急オペの場合は、これにて終了だ。
マスクや手袋、もろもろを外して、汚染物質箱に放り込む。
滅菌ガウンは専用の袋へ。自動扉をくぐりオぺ室を出て、神崎は、すぐ近くにある手洗い場に脱ぎ捨てていた白衣を取り上げる。
……さて、と。
白衣を羽織って息をつき、このままタバコを吸いにいくか、と神崎は考える。
オペ後、体的には水分を欲しているはずなのだが、なぜか水よりも煙を先に入れたくなるのが、神崎の常だった。精神的なものなのかもしれない。
わざわざ取りに行かずとも隙あらば手にできるよう、タバコも携帯灰皿も、常に白衣のポケットに常備している。
オペ室内にこういったものはさすがに持ち込めないが、室外までであればとくに禁止されていない。
もっとも、室内にはかなり特別な空調が働いており、基準値以下の無菌状態に保ってくれるため、仮に持ち込んだとしても問題は起こらないのだが。
履き古したクロックスを鳴らして、オペ室が立ち並ぶ廊下を歩く。
計二枚の自動扉をくぐり、事務室の前まで出る。
と、その直後、神崎の元に、一人の女性が急いた様子で駆け寄ってきた。
私服であることと、せっぱ詰まった表情から、先ほどオペを行った患者の親族だということを、神崎は察知する。