不器用ハートにドクターのメス
事務室前からは、もう手術部特有の空調は効いておらず、職員以外の人間の立ち入りが許可されている。
そのため、緊急オペを終えた際、ここで親族が待ち構えているということは、今までにも何度もあった。
「~先生っ!!あの……っ、」
「オペは無事終了しました。安心してください」
女性に尋ねられる前に、先手を切って神崎は告げる。
とたん、女性は息を飲み、その目尻からは、溜まっていた涙がぼろぼろと溢れた。
「あ、ありがとうございます……っ、ありがとうございます……!!」
まるで神にでも遭遇したのかと違うほど、何度も頭を下げて礼を述べられ、神崎の中に苦い気持ちが込み上げる。
神崎は、自分の腕に自信はあるものの、優秀な医者であることをひけらかしたり、他者に対し驕ったりはしない男だ。
自分はべつに、崇められるような存在ではない、と思っている。
命を救うために尽力したのは確かだ。しかし、神崎にとって、オペは患者の命を救うと同様に、自身の存在証明のようなものなのだ。
無我夢中でオペを行っている瞬間こそ、神崎は、自分が生きていることを実感できる。
この仕事を取り上げられてしまえば、自分は無価値な人間になってしまう。
それゆえ、どちらかといえば感謝すべきなのは自分だという考えを、神崎は土台に持っていた。
患者の症状と執り行ったオペの内容を神崎が軽く説明したのち、女性はもう一度深く一礼し、その場から去っていった。
その後ろ姿を見送りながら、神崎は首の後ろを掻きやる。