不器用ハートにドクターのメス
真由美の声は、女性にしてはわりかた低めでハスキーであるため、感情の色がうかがいにくい。
短い言葉を耳に入れ、神崎は、真由美の表情を確認するように、少し前かがみになって続けた。
「おー。えらく早朝から来て、帰りも遅くまで残ってるだろ」
神崎の言葉に反応し、真由美はうつむけていた頭の位置を上げる。
近い距離で、目が合う。
言葉はなかったが、その目に、なんで知っているのか、と問われている気がして、神崎は自分が失言を吐いたことに気づく。
これでは、気にして見ている、と自己申告しているようなものだ。
なんだか負けたような気分になり、神崎は視線を前に戻し、タバコをくわえる。
そして、ライターをかまえてから、はっとした様子で尋ねた。
「……あ。嫌いじゃないか、タバコ」
「……はい」
「オペ終わったあとは吸いたくなんだよ」
真由美の了承を得たところで、神崎は少し瞳をゆるめて、タバコの先端に火をつける。
煙を吸い込み、タバコを指ではさんでくちびるから離すと、空に向かって煙を吐く。
一度に出してしまうのではなく、少しずつ。
煙を棒のように細く立ち上らせる吸い方を、神崎は無意識に好んでいた。
「……お前は?」
「えっ」
「吸わねーの」
「……吸いません」
「ふーん……」
細い紫煙が、ぬるい空気を割る。
無言の時間が、秒数を刻んでいく。
神崎は気づいていた。さきほどから、会話の発端は全て、自分からだということに。
一応質問に答えてはいるものの、真由美からのアクションはない。