不器用ハートにドクターのメス
“ 神崎先生は、ドベーキー鑷子は曲を好まれる ”
“ 血管を縫うときは5ー0プロリーンのBB糸使用 ”
その書き込みを見て、神崎は舌を巻いた。
その通りだった。たしかに、自分はよく曲の鑷子と、細めの糸を使う。
一度ついただけなのによく見ているなと、神崎は感心し、そして同時に、くすぐったさを覚える。
観察していたのは俺の方だったはずなのに、実は自分も、こんなにしっかり観察されていたとは。
その後にも、まだ、メモの言葉は続いていた。
“血管処理の剥離後は絹糸、この流れは鉄則”
『血管処理の剥離後は絹糸って流れが鉄則だろうが!!』
……そういえば、前のオペで、そんなことを怒鳴ったような気がする。
自分ではすっかり忘れていたが、ポンと発した言葉が丁寧に書き置かれていたことに、神崎は妙に満ち足りた気持ちを抱いた。
不思議な感情だった。新鮮な思いで、真由美の方を見遣る。
真由美は相変わらず、膝を抱えて、ぎゅっと小さく丸まっている。
その様子を眺めているうちに、もしかして……という仮定が、神崎の中に浮かび上がる。
もしかして……照れているのか?
一見不機嫌極まりない顔をしているようだが、よくよく見てみれば、耳がほんのりと赤い気がする。
一文字に結ばれたくちびるも、つり上がった眉も、怒っているのではなく、恥ずかしさに耐えていると見て取れなくもない。
それに、と神崎は考える。
出世欲が強いとばかり思っていたが、こいつはただ、本当に真面目なだけなのかもしれない。