不器用ハートにドクターのメス
オペが長引かず、それどころか短縮して終わったのも助かった。
弁の石灰化という難所があったものの、それは神崎の予測内だったらしく、オペは無事、時間内で終了したのだ。
……やっと。やっと終わった。
気が抜けると本当に意識を飛ばしてしまいそうで、なんとか緊張を保ったまま、真由美は自分を、現世に引っ張りとどめる。
震える手足を動かし、器械をチェックし、滅菌室に送る作業までを済ませる。
そして、ふらふらとオペ室を出たところで、真由美はすぐ、神崎に遭遇した。
神崎は、廊下の壁にもたれて、真由美のことを待っていた。
初めてオペにつかせてもらった時にも、こんな風に、真由美は出待ちをされていた。
だが、前と違うところは、神崎が優しく微笑んでいるという点だ。
「……お疲れ」
自分を待っていてくれて、神崎が笑顔を見せてくれたことが、真由美には本当に嬉しかった。
自分は少しでも、先生の役に立てたのだろうかと、そう思えて、心が震えた。
けれど震えていたのは、心だけではなかった。
手足、くちびるまでもが震え出し、「お疲れ様です」と返すことが、真由美にはできなかった。
普段は動かそうとしてもなかなか動かない仏頂面が崩れてしまいそうなほど、限界は間近にせまっていた。
鋭い神崎は当然、真由美の異変に気付くわけで、笑みを引っ込め、その表情を険しくする。
「おい、大丈夫か」
「だ、いじょうぶ、です」
裏返った声で、なんとか言い切る。
自分の笑顔が怖いことはわかっているが、それでも笑った方がいいだろうと、真由美はくちびるを無理やり上げる。