不器用ハートにドクターのメス
いつかマンガで見たお姫様抱っこの状態にあると気づき、真由美は神崎の腕の中で慌てる。
「〜だ、大丈夫です……っ、大丈夫、ですから、おろし……」
「アホか!!どうみても大丈夫じゃないだろ!!」
神崎の怒声に、おろしてください、の言葉はかき消える。
もっとも今おろされても、体にうまく力が入らないので、べたりと廊下に倒れこんでしまうことは目に見えていたのだが。
オペ中はせっかくそこまで怒鳴られなかったのに、オペ後に怒鳴られてしまった。先生にだけには迷惑をかけたくなかったのに、かけてしまった。
自分にがっかりしながら、真由美は鼻の奥をツンとさせる。
腹部が重い。体全体が気持ち悪い。
少しひねれば、吐き気をもよおしてしまいそうだ。
あまりの不調に抵抗どころか、力の入れ方もわからず、真由美はくたりと、神崎の胸元にもたれかかってしまう。
「……そのまま、じっとしてろ」
降ってきた言葉はぶっきらぼうだが、そこにはたしかに深い情がにじんでいて、真由美は泣きそうになってしまった。
真由美を抱えたまま、神崎が歩き出す。
いつもの大股。けれど、できるだけ振動をくわえないように配慮した歩き方だ。
すぐそばにある厚い胸板に、そういえば旧書庫で、すっぽりこの胸元におさまってしまったことがあったなぁと、真由美はぼんやり思い出す。
すっぽりというか、ぴったりというか。
なんだろう、とても、心地いい。
神崎の体にしみついた消毒液の匂いにほっとして、真由美はとうとう脱力すると、意識をとばした。