不器用ハートにドクターのメス
先生に不快な思いをさせてはいけないと、真由美はとっさに、脇に目を伏せた。
「……福原」
ふと顔に影が差したかと思うと、真由美のひたいにかかる髪を上げるようにして、神崎の指先が触れてきた。
そのまま、いつかされたときのように、わしゃわしゃと頭全体を撫でられる。
「あ、あの……」
「本当にやばいときは、ちゃんと前もって言っておけ」
手を止めず、低いかすれ声で、神崎は告げる。
「もし倒れたのがオペ中なら、笑い事じゃ済まない。患者にもスタッフにも迷惑がかかることになる」
「……っ、すみません……」
言われて初めて、真由美は気づく。
心臓がひやりとした。たしかに、もし倒れたのが本当にオペ中なら、取り返しのつかないことになっていただろう。
我慢すればいいというのは、間違った自己判断だった。勝手に良かれと思ったことで、患者さんにもリスクを負わせてしまっていたのだ。
真由美は恥ずかしくなり、消えたいような気持ちで、胸元までかかっていたタオルケットを、喉元まで引き上げる。
そんな真由美を見て、神崎は撫でる動きを一度止め、もう一度ゆったりと柔らかく撫でてから、その手を離した。
「……すまん、怒りたいわけじゃない」
「……っ、」
「お前は、いちいち無理しすぎなんだよ。迷惑以前に、お前に何かあったら困るだろ」
頭から離れた神崎の手が、次は、真由美の指先に触れる。
指先を包み、手の甲を上り、手首を、まるで時計のベルトを模倣するように、親指と中指で囲う。
「……ほっそい手首だな」
「……あ……」
「もっとちゃんと食えよ」