いつか孵る場所
透は日が変わる前までに病院へ戻った。
目の前の天使は管に繋がれて一度もママとパパに抱っこされていない。
呼吸も自発呼吸はしていない。
脳波ももうほとんど見られない。
残された時間はほとんどない。
両親も憔悴しきっている。
「先生、もう、いいです。この管を取ってくれませんか?」
若い母親は涙ながらに訴える。
「早く抱っこしたい」
目の前の保育器や色々な管が親子の距離を邪魔する。
「抱っこするということはその後、亡くなるということです」
パパもママも頷いた。
透は頷いて新生児科医の太田へ連絡を入れた。
太田は特に新生児を専門とする医師だ。
彼がいるからここのNICUは成り立っている。
ちなみに透の専門は新生児、呼吸器、アレルギーだ。
「そうですか…」
太田はゆっくり頷いた。
「生き物は産まれると同時に死ぬ運命も背負う。
仕方がないとはいえ、やりきれないですね」
そう言って唇を噛みしめた。
早朝の会議で方針が決まり、透は足早にフロアを歩いていた。
『ご両親は透先生を信頼されています。
最後は先生、お願いします』
とは太田。
今回のケースではメインの主治医は太田と透がついた。
主に太田だが、太田も他の重病患者を持つ。
一人が危険な状態に陥ったので太田はそちらに専念する事になった。
今日もよく晴れた春の朝だ。
磨りガラス越しに柔らかい光が入る。
透は大きく息を吸って呼吸を整え、目をしっかり見開いた。
全ての管を素早く外し、透はすぐに母親の腕に赤ちゃんをそっと抱かせる。
冷静を装うけど、管を外す間、段々視界が見えづらくなる。
「…温かい」
お母さんは優しく我が子を抱きしめるとポロポロと涙を流した。
すぐにお父さんも抱っこをして
「よく頑張ったねぇ」
と涙ながらに言う。
何度かこういう事があったけれど、その度に張り裂けそうになる。
そして、自分のしている事が本当に正しいのか、わからなくなる。
毎回、自分のしている蘇生は本当に正しいのか。
命が救えたなら正しいと思う。
でも、残念な結果ならば…。
少しでも長く、赤ちゃんをお父さんやお母さんに抱っこして貰う方が幸せじゃないのか…。
産まれてすぐに天に還らないといけない小さな天使に少しでも親の温もりを感じて貰った方が正しいのではないか。
また深い闇に堕ちていく感覚がする。
透は両親とは真逆を向き、2、3回肩で息をして涙を拭く。
もうしばらくしたら判定をしなければいけない。
天井を見上げて手を胸の前で握りしめた。
目の前の天使は管に繋がれて一度もママとパパに抱っこされていない。
呼吸も自発呼吸はしていない。
脳波ももうほとんど見られない。
残された時間はほとんどない。
両親も憔悴しきっている。
「先生、もう、いいです。この管を取ってくれませんか?」
若い母親は涙ながらに訴える。
「早く抱っこしたい」
目の前の保育器や色々な管が親子の距離を邪魔する。
「抱っこするということはその後、亡くなるということです」
パパもママも頷いた。
透は頷いて新生児科医の太田へ連絡を入れた。
太田は特に新生児を専門とする医師だ。
彼がいるからここのNICUは成り立っている。
ちなみに透の専門は新生児、呼吸器、アレルギーだ。
「そうですか…」
太田はゆっくり頷いた。
「生き物は産まれると同時に死ぬ運命も背負う。
仕方がないとはいえ、やりきれないですね」
そう言って唇を噛みしめた。
早朝の会議で方針が決まり、透は足早にフロアを歩いていた。
『ご両親は透先生を信頼されています。
最後は先生、お願いします』
とは太田。
今回のケースではメインの主治医は太田と透がついた。
主に太田だが、太田も他の重病患者を持つ。
一人が危険な状態に陥ったので太田はそちらに専念する事になった。
今日もよく晴れた春の朝だ。
磨りガラス越しに柔らかい光が入る。
透は大きく息を吸って呼吸を整え、目をしっかり見開いた。
全ての管を素早く外し、透はすぐに母親の腕に赤ちゃんをそっと抱かせる。
冷静を装うけど、管を外す間、段々視界が見えづらくなる。
「…温かい」
お母さんは優しく我が子を抱きしめるとポロポロと涙を流した。
すぐにお父さんも抱っこをして
「よく頑張ったねぇ」
と涙ながらに言う。
何度かこういう事があったけれど、その度に張り裂けそうになる。
そして、自分のしている事が本当に正しいのか、わからなくなる。
毎回、自分のしている蘇生は本当に正しいのか。
命が救えたなら正しいと思う。
でも、残念な結果ならば…。
少しでも長く、赤ちゃんをお父さんやお母さんに抱っこして貰う方が幸せじゃないのか…。
産まれてすぐに天に還らないといけない小さな天使に少しでも親の温もりを感じて貰った方が正しいのではないか。
また深い闇に堕ちていく感覚がする。
透は両親とは真逆を向き、2、3回肩で息をして涙を拭く。
もうしばらくしたら判定をしなければいけない。
天井を見上げて手を胸の前で握りしめた。