いつか孵る場所
「先生、ありがとうございました」

早産で産まれ、残念ながら天に還った我が子を最期に抱きしめた母親は病院を後にする前、何度も透に頭を下げた。

「いえ…。
僕は何も出来ませんでした」

透も一礼する。

「…今更ながら後悔してします。
体調が悪いのは先週から感じていました。
病院にも行ったんですけど、安静の指示しかなくて…。
私ももっと色々聞けば良かった…」

聞けば、少し前まで働いていてようやく産休に入ってホッとしたところだったらしい。

家の近所の産院に通っていたが、いざとなるとハイリスク過ぎて、搬送になったとの事だった。

「もし、今度妊娠する事があれば最初からこちらに来ます。
遠くても、自分と子供の命が掛かってるんだし」

そう言うと肩を震わせて泣いた。

何と声を掛けて良いのか迷っていると父親が

「先生、何度も様子を見に来て頂いて、沢山の励ましの言葉を掛けてくださって本当に感謝しています。
きっとウチの息子も精一杯して頂いた事を喜んでいると思います」

透は首を横に振った。

「…僕は」

「先生」

母親は涙を拭いて少しだけ微笑んだ。

「先生が家に帰ったのは私の記憶に間違いがなければ昨日の夜、2時間くらいですよね?
ここ数日、夜はほとんど付いてくださいました。
先生が必死に診てくださったけれど、ダメだった。
仕方がないと思います。
でもその姿を見て、私達も頑張る事が出来たし、前を向かなきゃって…、次に進まないと…」

透の涙腺が決壊した。

− めちゃくちゃ我慢してたのにな… −

「今度、子供が産まれたら、先生、次こそは色々診てくださいね!」

両手で顔を覆った。



こんな悲惨な状況でこんな誉め言葉はないと思う。
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