いつか孵る場所
「ハル、帰るよ~」

翌日の夕方、17時に仕事を終わらせて透はハルを部屋まで迎えに来た。
久々に透の私服姿を見た気がして、ハルは胸が高鳴る。
白衣姿をこの1ヶ月、毎日見ていたがハルにとってはドキドキものだった。
暇な入院生活で唯一の毎日の楽しみだったと言っても過言ではない。
けれど透の何気ない普段の着こなしもハルは好きだった。

「うわ、さすがに37週になると結構大きいなあ」

ベッドから体を起こし、床に足を着けて立つ。
透はそっとハルのお腹を触った。

「あ、起きてる」

手を当てたその瞬間、蹴られたので透は嬉しそうに笑う。
透はハルの荷物を持ち、手を繋ぐ。

「前にもこういうの、あったよねえ」

「うん、あったね」

ハルはぎゅっと透の手を握りしめる。
透も軽く力を入れる。



「先生!とりあえずおめでとうございま~す!!」

ドアを開けると産婦人科の看護師たちが堂々と立っていた。

「次、奥様が来るときは出産の時ですね」

「立ち会うんですか?」

透はやれやれ、という顔をして

「立ち会えたらいいですけどね。
何せこういう仕事は難しいですからなんとも」

ハルは看護師たちに頭を下げて

「お世話になりました」

とお礼を述べると

「次も頑張ってくださいね!!本番はこれからですよ!!」

と励まされた。



「おお、透、ハルちゃん」

偶然、病院のロビーで至と会った。

「一旦、退院だな。
ハルちゃん、陣痛が来るまでは家でゆっくりとしてね。
雑用は母さんにさせればいいから」

至はにやりと笑った。

「透も出来るだけ一緒にいてあげろよ」

至は透の肩をポン、と叩いて病棟へ向かう。
その姿を二人は見送ると

「じゃあ、行くよ」

透はハルの手を引っ張った。
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