いつか孵る場所
迷いが生じている間、また新たな患者がやって来た。



「先生、何やってるんですか!」

患者を呼ぼうとしたら、パーテーションの奥からやって来たのは黒谷。

「…黒谷先生こそ、今日は当番でも何でもないはずじゃ?」

「江坂先生に頼んで高石先生が当直の時、奥様が入院したらすぐに連絡してもらうようにしていました。
いつかのお返しです」

黒谷は透の背中を押した。

「さあ、頑張って立ち会ってください、お父さん!
ただ…どうしても駄目な時は連絡します。
その時は申し訳ないですけどお願いします」

透は一瞬、目を閉じて開ける。
その目にもう、迷いはなかった。



「ありがとう、後は頼んだよ」

透は黒谷の肩をポン、と叩いた。



透が出ていった後、黒谷は患者の名前を呼ぶ。

− 完全に捌けたら様子を見に行こう、カメラ持っていこうかな。
きっと高石先生、カメラも何も持ってきてないと思うし −

黒谷は患者が入ってくるまでクスクス笑っていた。
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