いつか孵る場所
会場には懐かしい顔がたくさんあった。

皆、楽しそうに会話をしている。

「…探しているの?」

悲しそうな眼をして真由が聞くので透は笑って頭を横に振った。

「多分、来ないと思うし」

「…そう」

真由はどこか納得いかなかった。

あれから20年近く経つけれど、きっと透の心の中にずっとハルがいる。

色々な縁談をことごとく断っていると、透自身からも聞いている。

親のしつこい勧めが嫌だから、とか言っているけど。

それは建前上の話。

そう真由は思っている。

「おお、高石~!!」

透の3年の時のクラスメイトが話しかけてきた。

真由は席を外そうとしたけれど、透にこっそりそれを引っ張られた。

パッと周りを見ると隙あらば話しかけようという好奇の目をした人間が何人もいた。

そのまま何気に一緒にいることにする。

「この前はありがとうな!本当に助かったよ」

「その後、明日香ちゃんはどう?」

「うん、元気に過ごしている」

「良かった」

透は大学卒業後、研修を終えるまでは大学病院にいた。

大学教授の話に心を打たれ、選んだのが小児科。

小児科専門医を取得し、その後、大学病院近くの公立病院へ赴任。

そこで3年救急科にいて救急科専門医を取得した後、再び小児科に戻った。

小児救急もしたいと考えての救急科での経験は今でも役に立っている。

大学での成績も抜群に良かったが医者としての技量も抜群に良かったのでそのまま残って欲しいという声は大きかったが、父親が院長になった総合病院へ。

小児科医が激務で相次いで辞めるという嘆きを至から聞いた透は地元へ戻る決心をした。

本当はそのまま残って地方で暮らそうと思っていたけれど、兄が苦しんでいるなら助けるしかない。

「ええっと、平野さんとは仲、良かったっけ?」

そのクラスメイトは戸惑いながら聞くと透は

「うん、拓海と僕は仲が良かったからね。その縁で」

サラッと流した。

皆が耳をダンボにしていると思うのでわざと声を大きめにして

「まあ、真由ちゃんの子供たちがバイクのレースに出ているからそのスポンサー…と言っても少額だけどしていたりして、仲が良いんだ」

あくまで友達として。

透はそこを強調した。
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