いつか孵る場所
「淡路さん、これ、頼めるかな」

午後から幾度となく、大竹はハルに近寄ってくる。

「はい、夕方までには」

ハルは大竹から書類を受け取るとすぐにモニターに目を向けた。

「今日、退院祝いにどこかへ食事にでも行かない?」

大竹はハルの耳元で囁く。
思わず鳥肌が立った。

「大竹課長、申し訳ありません。まだ体調も万全ではありませんし、用事もあるので」

「じゃあ明日」

そこへハイヒールの踵の音が響いたかと思うと

「大竹くん、外回りお願い」

神立が書類の入ったファイルを突き付ける。

「副部長、それは…」

大竹の舌打ちが聞こえた。

「あなたが訪問しなさい」

書類を確実に大竹の手に渡すと踵を返した。

そしてチラッとハルを見て少しだけ口元を上げた。
ハルも目で合図をする。



ハルは泣きそうなくらい嬉しかった。
会社には味方なんていないと思っていたから。
そういう人が一人でもいてくれたら、仕事も頑張ろうと思う。

ハルは気合いを入れてPCに向かった。
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