いつか孵る場所
一方。



「透先生」

朝、引き継ぎが終わってから河内は透に話しかけた。

「はい」

外来に向かおうとしていた透を廊下で呼び止める。

「ああ、良かった」

「…?」

「産婦人科の江坂先生が昨日、透先生が相当疲れていたっておっしゃっていたのをお聞きしたので、少し心配していましたが…大丈夫そうですね♪」

確かに透は50時間起きていて、その後1時間しか寝ていない。

「彼女にでも癒されました?」

唐突に聞かれ、透も少し悩みながら

「はあ…まあ…」

曖昧に答えたが、今、こうやって立って仕事が出来るのは間違いなくハルのおかげ。

「あら、まあ!」

河内は嬉しそうな顔をして

「透先生も近々ご結婚されるかもしれませんね」

いつもより大きな声で言った。

「いや…まだ…」

「透先生!プロポーズ、頑張って!!」

河内は思いっきり透の背中を叩いた。

「河内さーん…痛い…」

ふと、ナースステーションを見ると、最近やたら透にアピールしてくる看護師がいて、少し青ざめていた。
それが一人ではない。
数人、今日同じシフトに入っていた。

せっかく今朝は久しぶりに良い朝を家の布団の中で迎えたのに透としては自分が動物たちに狙われている獲物のような気分で天国から地獄に落ちた気分だった。

今まで何度か付き合いたいアピールをされて、それとなく断っていたのだが…。
それでも強引に来そうだったので警戒していたところだった。

河内も同じ方向を見ていて、ふと透を見上げると、少しだけ舌を出した。

「トドメを刺してきます」

そう言うと河内はナースステーションに向かって歩き始めた。
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