いつか孵る場所
外来が終わったのは14時。

透が診察室を出て、廊下を歩いていると偶然、至に会った。

「透、今から休憩?」

「うん、少しだけ」

「僕も今から休憩。一緒にどう?」

あまり誘わないのに、珍しい事もあるなあ。
透はそう思いながら頷いた。



職員食堂では人気が疎らだった。

「…まるで塩分制限が掛かっているような注文の仕方だな」

至が透の注文した品を見て言う。

ごはん(極小)
冷奴
グリーンサラダ
しかもドレッシング類一切なし。

「あまり食べたくない」

一方の至は愛妻弁当。
彩りも栄養もしっかり考えられている。

「…桃子さんは相変わらず兄さん想いだね」

「まあね〜」

至は妻、桃子を褒められると凄く喜ぶ。
ニコニコと嬉しそうだった。

「桃ちゃんが二人に会いたいと言ってたよ」

「…うん、そのうち」

透がため息をつく。

「どうした?」

「…うん。本当に僕がハルを幸せに出来るか、不安になってきた。考えれば考えるほど、頭が混乱してきて」

また大きくため息をついた。

「僕、ほとんど家に帰らないし。休みも休みじゃない日が多いし。もし子供が産まれても、常に父親不在。ハルに負担ばかり掛けそう。ハルは我慢するタイプだから抱え込みそうだし」

「…まあ、この仕事はそうだよねえ」

透の葛藤はよくわかる。
自分もそうだけど、幸い至の妻はメンタルが強いのか天然なのか、それとも完璧な女性なのか、至にはそういう事は一切言わなかった。
開業医の娘、という事もあるから理解しているのだろうと思う。

「それでも、ハルには一緒にいて貰いたいんだ。ハルがいてくれるだけで僕は辛い事も乗り切れる」

− 透ってこんなにハッキリ自分の気持ちを言うんだ −

自分を頼ってくれてそう言うのかな、と思うとますます協力したくなる。

「もう、一緒に住んだら?二人とも若くないんだし。透の気持ちをもう一度、ハッキリハルちゃんに伝えてさ。曖昧な言い回しではなくて、結婚してって言ったら?」

「僕とハルだけならすぐにでもそうするよ…ただ…」

「父さんや母さん?」

至の言葉に透は頷いた。
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