さくらの花が舞う頃に
戸山が驚いたように大きく目を見開いている。
それを見て、まだ戸山の胸ぐらをつかんだままだということに気づいた。
握りしめていた戸山のTシャツの襟元をぱっと離す。
思わず熱くなってしまったことが恥ずかしくて、戸山から視線をそらした。
「…………ひとつだけ言っとく。 俺と結衣、付き合ってねーから。
元カノなのはほんとだけど、今は全くそういう気持ちない」
結衣が提示した条件の中には、「結衣と付き合うこと」も入っていた。
だから、結衣の中では俺と結衣は付き合ってるのかもしれない。
だけど。
もう自分の気持ちを偽ってまで、そう言い続けることは俺にはできなかった。
俺と結衣は付き合ってない。 それが事実だ。
それじゃ、と小さく言ってそのまま戸山の脇を通り過ぎようとした。 ところが。
「………は?嘘だろ」
すれ違い様に、戸山がぼそっとつぶやいた。
「えっ?」
戸山の方を振り返ると、戸山が呆然としながら俺を見ている。
「は?嘘ってなにが」