大人の恋は波乱だらけ!?
「……行こう」

「え……?」


突然と高梨部長は短く言葉を放った。
私の手を引っ張ると、慣れた様にお金を払いバーを出て行く。
口を挟む暇なんてない。

すっかりと暗くなった街並みに、お店の明かりが灯っていて夜の雰囲気を際立たせていた。
行き交う人々も、昼間のビシリとスーツを着こなした、いかにもビジネスマンという人から、赤い顔をしながら千鳥足でふらつく人へと変わっている。

街は喧騒で包まれているはずなのに、私たちの周りだけは静かな時間が流れていた。
繋がれた手はしっかりと握りしめられているのに、ここで離したらもう会えない様な寂しさが胸を支配している。

彼の背中を見ていると、無性に寂しくて涙が浮かんできそうになる。
別に怒っている雰囲気は感じないけど、何でこんなにも胸が騒ぐのだろうか。


「乗って」

「は、はい」


いつの間にタクシーを拾ったのか、私を後部座席に乗せると自分も乗り込んでくる。
高梨部長が運転手さんに行先を告げたが、聞き取ることが出来なかった。
彼は無言で私の手を握ったまま窓の外を眺めている。
その横顔が何を物語っているかは分からないけど、話し掛けることは出来なかった。

言葉はなかったけど、気まずいと思わないのは、繋がれた手のお蔭だ。
交じり合う体温が、言葉よりも多くの事を語っているみたいで……。
何となく落ち着く気がするんだ。

外の景色を眺めていれば、見慣れた光景が映し出されていた。
それは会社からタクシーで帰っていた時に見る景色と全く同じだった。
つまり……。


「到着しましたよ」

「ありがとうございます」


窓の外に見えるのは見慣れたマンションだった。
私の予想が当たっていた様だ。
呆然としていれば、急に手を引っ張られる。


「桜木、行くぞ」

「あ……お金……」

「もう払った、早く来い」


少し強引に引っ張られながら私はタクシーを降りた。
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