大人の恋は波乱だらけ!?
「とにかく、俺はお前と一緒に働きたい、そう思ったんだ。
あんな凄い小説を書ける奴が作ったゲームを見てみたい、コイツとなら誰も作れなかったものが作れるんじゃないかって、そう思った」

「高梨部長」

「あの時の俺は……自分を見失ってたんだ」

「え?」


高梨部長は、ふと顔を緩めると自嘲じみた笑みを浮かべた。


「上からは利益を出せと言われ、自分の中では消費者が笑顔になれるものが作りたいという想いがあって。
その両方がぐちゃぐちゃに交じり合って……。それでも自分の意思を曲げずにやって来た。
だけど、全然結果が出なくて自信がなくなっていたんだ。
結局は利益を求める事の方が大切なんじゃないかって」


初めて知る過去の高梨部長の姿に驚きでいっぱいだった。
いつも真っ直ぐに、消費者を想っている彼がそんな事を思っていたなんて想像もつかなかった。
驚く私を見ると高梨部長は優しく笑った。


「でも、お前のお蔭で確信した。
利益だけじゃないんだ、消費者が笑顔になれるものが出来て初めて“いいゲーム”となる。
そうじゃないゲームは……ただの道具だって。
ゲームは利益を生む道具なんかじゃない、そう自信を持って言えるようになったのはお前が教えてくれたからだよ」

「わ、私は何も……」


そんな恐れ多い事をした記憶なんかない。
大袈裟に首を横に振ってみるが、彼も首を横に振って譲らなかった。


「桜木が書く小説の奥には、いつも誰かの笑顔があった。
お前が、読む人の事を考えて書いているんだって一瞬で伝わってきたよ」

「あ……」


小説を書く上でずっと意識し続けてきた事。
決して誰かに分かって貰おうなんて思ってもいなかった。
寧ろそれは当たり前の事だと考えていた。
でも、こうやって誰かに言われると凄く嬉しいんだって、彼の優しい笑顔を見ていたら素直にそう思えた。


「お前がいてくれたから今の俺がいるんだ。
だから、ありがとう、俺の元へ来てくれて」


彼は私を抱きしめると、そっと自分の胸へと閉じ込めた。
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