大人の恋は波乱だらけ!?
「お礼を言うのは私の方ですよ」

「え?」


キョトンとする高梨部長は自分では分かっていないみたいだ。
私がどんなに貴方に感謝をしているのかを……。
それを伝える為に、彼の胸から少し体を離す。


「私を、私の小説を見つけてくれてありがとうございます。
シナリオを描く楽しさを教えてくれて、ゲームを作る喜びを教えてくれて……。
暗闇にいた私に光を当ててくれてありがとうございます」


もし高梨部長が私を見つけてくれなかったら、私は今頃何をしていたのだろうか。

きっと、普通の、小説やゲームとは無関係の職に就いて。
毎日それなりに忙しいけど、それなりに充実していて。

でも……。
心の奥底に後悔ばかり溜まって、それでも、そこで得たモノを捨てる勇気はなくて。
結局は色褪せた毎日を送っている。

今と違うのは、私を必要としてくれる人がいるか、いないかだ。
ココでは高梨部長も、消費者の方も私を必要としてくれている。
だけど、他の場所で働いていたら、私は居ても居なくても変わらない存在だろう。
だから、この道を選んで良かった、そう、言い切れる。

私が力強く頷けば、高梨部長は私を強く抱きしめてくれた。


「何言ってるんだよ。お前が礼を言う事じゃ……」

「言う事ですよ。だって、感謝でいっぱいなんですから」


クスリと笑えば、高梨部長にソファーへと押し倒された。
驚いていれば彼の端正な顔が私を見下ろした。

いつもの穏やかな優しい顔じゃない。
雄を感じさせる様な男の顔。

そんな彼を前に何も言えなくなってしまう。
ただ煩く高鳴る鼓動だけが響いていた。
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