SECRET COCKTAIL
「私、帰るね」
もうこれ以上ここに居ても、困らせるだけだと分かっていた。
雅君がほっとしたように頷いたのを見て、また少し胸が痛んだ。
「雅君、お会計」
今日はちゃんと払うつもりで、貯めていたおこずかいをきちんと持ってきていたのに、雅君は首を振る。
「駄目だよ。ちゃんと払わせて」
「いいから。こんなんで悪いけど、合格祝いだと思って」
「・・・うん」
送る、と言われて店の外まで雅君と出た。
現実からかけ離れたような煌びやかな店内が嘘のように、変わりないこの街の日常が扉の外にあって、ついさっきまでの出来事が嘘みたいだった。
こっち側の世界が、私のいる場所で。
扉の奥の世界が、今の雅君のいる場所。
たった一枚扉を隔てただけなのに、それは物凄く遠い距離に感じた。