強引な彼の求愛宣言!
さっきの電話の相手、武藤さん。

我が宮園信用金庫永田支店の取引先である、不動産会社に勤めている社員さんだ。

たぶん私とそう歳が違わない、若い男性で。彼の何が魅力的かって、どストライクに私の鼓膜を痺れさせる、あの素敵なお声だ。

重厚で、艶感があって、おなかに響くような低めの声。初めて彼の声を聞いたとき、あまりにも好みすぎるそれに気を取られて名前を聞き逃してしまったくらい。


武藤さんからの電話が来るようになったのは、わりと最近で数ヶ月ほど前から。

それまでうちとの取引の窓口になっていた中年女性が退職したのをキッカケに、武藤さんへと担当が代わったらしい。

まあ、月に数度の電話は、融資係への用事ばかりなんだけど。それでも最初に受けるのはほとんどが私たちテラーだから、担当者につなぐまでのほんの少しの間だけ、声を聞くチャンスがあるのだ。


そして武藤さんは、実は声だけが素敵なのではない。

今まで二度、彼のお顔を直接拝見したことがあるのだけれど……世に言うイケメンというやつで、やわらかい笑顔が印象的な、“ザ・さわやか好青年”といった雰囲気の人だった。

たぶん、実際の来店回数はもっと多いのだと思う。それでも私のお昼休みや接客中などと重なってしまったのか、まだ二回しか姿を見たことがないのだ。

そのうち一度、彼がいる応接室にコーヒーを持って行ったときは、本当に緊張した。

武藤さんの前にカップを差し出す際に手が震えてしまって、「ありがとうございます」と微笑まれたときも、うまく返事をすることができなかった。


……たとえば、あんな素敵な人が、彼氏だったりしたら。

きっと私、緊張のしすぎで倒れてしまう。というか、おそれ多くて隣りも歩けない。ここしばらく恋愛なんてご無沙汰な私に、あんな優良物件はハードルが高すぎだ。

たぶんこれは、恋とも言えない、ただの憧れなんだと思う。テレビの中のアイドルにキャーキャー熱を上げるような、そんな感覚。

まず私、武藤さんの下の名前も、歳だって知らないし。結婚してるとか、彼女がいるかなんてもっての外。

うーん、考えれば考えるほど……武藤さんと私って遠い、なあ。



「いらっしゃいませー」



ガーッと自動ドアが開く音ともにお客さまが来店したので、顔を上げて笑顔を浮かべる。

そうして律儀に受付カードを引いてくれたその女性を呼ぶため、私は呼び出しボタンへと手を伸ばした。
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