強引な彼の求愛宣言!
1番最初に彼女と話したのは、もう数ヶ月も前のことだ。

ベテラン社員さんの退職がキッカケで経理の仕事も兼任することになった俺は、その日初めて宮園信用金庫に電話をすることになった。

金融機関への電話って、なんとなく緊張。そこそこ長くこの会社に勤めているくせに若干堅くなりながら、固定電話の短縮ボタンを押した。



《──ありがとうございます。宮園信用金庫永田支店、深田でございます》



おお、出るの速い。さすがキッチリしてますね。

そんなことを考えながら、小さく息を吸う。



「東明不動産の武藤と申します。いつもお世話になっております」



まあ、この人と話すのは初めてだけど、一応社会人としての共通の挨拶だ。

そのお決まりのセリフを言い切る直前に、『あれ?』と胸の中が冷たくなる。


……融資担当者の名前、なんだっけ。



《こちらこそ、いつもお世話になっております》



電話口からは、ビジネス電話のお手本みたいな感じのいい声。

相手がその言葉を言ったら、今度はこちらの方が用件を話す番だ。なのに自分が代わって欲しい担当者の名前が出て来なくて、つい無言になってしまう。


オイオイオイ、ここまで来てド忘れかよ。

こないだ、わざわざウチまで挨拶に来てただろうが。恰幅がいい上司と一緒に来てた、整った顔の若い男。

……だめだ思い出せない……!
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