強引な彼の求愛宣言!
「……ふっ、」



つい、笑みがこぼれてしまって、口元を片手でおさえる。

そしてすぐに、受話器を握り直した。



「すみません、失礼しました。……では、融資担当のイケメンの方はいらっしゃいますか?」



彼女にならってそんな言い方をすれば、機械越しの彼女も小さく笑う。



《ふふっ。──かしこまりました、三木ですね。少々お待ちくださいませ》



はい、とこちらが返事をしたのを聞いて、通話が保留になる。


ああ、そうだ、“三木さん”だ。名前聞いたらピンと来た。

さりげなく名前を教えてくれたことに感謝しつつ、今にも思い出し笑いしそうな口元を握りこぶしで隠す。


というか、『ぽっちゃり』とか『イケメン』って言い方しなくても、こうして普通に名前を出してくれたらわかったかもしれないのに。わざわざまわりに聞こえないように気をつけてまであんな言い回しするとか……おもしろいな、さっきの子。

フカダ、って名乗ってたか?

こそこそイタズラをする子どもみたいにひそめていた声と、ハキハキした澄まし声。

そのギャップにまた笑いが込み上げそうになったところで、プツリと保留のメロディーが途切れた。



《お電話代わりました、三木です》



耳に届くのは、聞き覚えのある若い男性の声だ。

すみません、三木さん。俺、あなたの名前ド忘れしてました。

だけどそのおかげで、予想外に和む出来事がありました。


あんなに鮮やかに耳に残った声は、きっと、生まれて初めて。

三木さんと仕事の話をしながら、彼女の控えめで楽しげな笑い声を、何度も思い出した。
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