かわいい君まであと少し
 望月課長の手は温かくて大きかった。きっと、キスをされても嫌だとは思わないきがする。
 告白されてからの少しの変化。お隣さん同士になってからの変化。変わっていく心に戸惑う自分を見つけ、また戸惑う。
 明日はどんな顔をして会えばいいのだろう。

 昨日今日もなんとか仕事と志穂ちゃんのことをこなし、明日は望月課長が京都へ行く日だ。
 一昨日の夜のことは全くなったかかのように望月課長はいつも通りに接してくる。
 志穂ちゃんがいる手前、無駄にぎくしゃくするのも、無駄に甘い空気を醸されるのも困るからこっちとしては有難い。
 志穂ちゃんの寝顔を眺めていると、望月課長がお風呂から出てきた。志穂ちゃんの布団を挟むようにして向かい合って座る。
「明日は忘れ物しないようにしてくださいね」
「わかってるよ。でも参ったよ、時間がぎりぎりで新幹線の中で弁当だ」
「いいじゃないですか、駅弁。種類も豊富だし、美味しいのが多いですよ」
「うーん、俺はあまり好きじゃないんだよ」
「駅弁嫌いって人、初めてです」
「嫌ってほどじゃないよ。ただ、普通のお弁当が好きなんだよ。駅弁は弁当のくせによそ行きの味がするし」
 その言葉に少し笑ってしまった。望月課長は「どうせ、お子様の味覚って言いたいんだろ」と、そっぽを向いてしまった。
「明日はいろいろと忙しいと思うので、今日は早めに戻ります」
 玄関に下りると、望月課長が「ちょっと待ってくれ」と言って部屋の奥へと行ってしまった。

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