かわいい君まであと少し
「鈴木さん、そんなふうに謝らないください。私は自分の意思で志穂ちゃんと一緒にいたんです。すごく楽しかったですよ。私は何一つ迷惑なんんて思っていませんから」
「ありがとうございます。本当にありがとうございます」
 鈴木さんはお礼を言うたびに、頭を下げていた。
「ゆり、旦那のほうはどうなったんだ」
「ただの骨折だから大丈夫。最初は帰国の話も出たんだけど、本人がこのまま残るって言ってね。旦那も元気だし心配いらない」
 望月課長も「そっか、よかったな」と言って、安堵していた。
「ゆり、コーヒーでも飲むか?」
「いい。早く志穂を家に連れて帰りたいし、旦那のお義母さんに電話しないと」
「そうか」
 鈴木さんは志穂ちゃんを抱きかかえ、望月課長は荷物を持って、玄関に立った。
「藤崎さん、ありがとうごいました」
「いえ。志穂ちゃん、バイバイ。またね」
 志穂ちゃんの目線の高さになるように少しだけ体を屈める。
「れい、ともだちね」
「うん。友達だよ」
 志穂ちゃんは私に小さく手を振ってくれた。同じように手を振り返す。
 鈴木さんはもう一度、お礼を言って玄関を出て行った。
「鍵、開けたままにしておくから、俺が戻ってくるまで待ってくれ」
「わかりました」
 望月課長も部屋を後にした。
 ドアがバタンと閉まると、部屋は妙に静かになった。
 志穂ちゃん、帰ちゃったな。

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