かわいい君まであと少し
 志穂ちゃんがいることで、やらなくちゃならないこともあったし、頭の中が母親仕様になっていのかもしれない。その母親仕様がなくなれば、ただの藤崎怜子だ。
 見えないところにあった感情が、突然体を巡り始めたような感じがする。
 あー、どうしよう。落ち着け私。望月課長と食事行くことをデートって思ったのがいけないんだ。ただの食事。
 なんとか気持ちをなだめ、掃除と洗濯を終えた。
 ちょうど五時にインターフォンが鳴った。
 ドアを開けると、朝とは違う服を着た望月課長が立っていた。
「準備、できてるか?」
「はい」
「じゃあ、行こう」
 部屋を出て、望月課長の後ろを黙って歩いた。
 黒のデニムにベージュのジャケット。中にはVネック白いセーター。
 望月課長のシンプルな服装を見て、自分も同じような系統で選んでよかったともった。最初は花柄のワンピースとにしようかと思ったけど、濃紺のワンピースを選んで本当によかった。
 駐車場に着くと、シルバーグレーの車の鍵を解除した。
「これ望月課長の車ですか?」
「そう。これは俺の車。どうぞ」
 助手席のドアを開けられたので、また助手席に乗る羽目になった。
 車が動き出し、少し薄暗くなった空を眺めた。
「怜子って、車に乗ると外よく眺めてるよな」
「小さい頃からの癖なんです」
「へえ」
 街灯が灯り、少しずつ夜の準備が始まる。この時間の景色が一番好きだなと思う。

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