かわいい君まであと少し
「ですよね、そう思いますよね、誰だって。まあ、どうぞ座ってください」
 部屋の中央に置いてある丸型のローテーブルを囲うようにして座った。
「あの、すみません」
 彼は私のほうを見て自己紹介を始めた。
「ご挨拶遅れました。初めまして。和泉 聡(サトシ)です。望月先輩の大学の後輩です」
「初めまして。藤崎怜子です。望月課長と同じ部署で働いています」
「そうですか。僕のことは聡でいいですから。僕は怜子さんって呼んでいいですか」
「はい」
 聡さんが「やった」と言うと、望月課長がすかさず「怜子、おかしくないか」と言ってきた。
「俺のことは望月さんって呼ぶくせに、なんで初対面の聡を“聡さん”って呼ぶんだよ」
「上司だから」
「今はプライベートだ」
 どれだけ名前で呼ばれたいんだろう。
 私は苦笑いをしながら、膝の上に座る志穂ちゃんの頭を撫でていた。
「まあまあ、先輩落ち着いて。で、この子が志穂ちゃん?」
 望月課長をなだめながら聡さんが聞いた。
 志穂ちゃんは急に自分の名前を呼ばれてビクッとした。
 聡さんはテーブルの下からサルのぬいぐるみを取り出した。
 わざわざ仕込んでおいたのだろうか。私のささやかな疑問のために、聡さんがやろうとしていることを中断するのも悪い気がして、そのことは触れずにいた。
 そして声色を少し高くして、ウサギのぬいぐるみに話しかけた。
「こんにちは、ウサギちゃん。僕はおさる君です。そして、この人は僕のお友達の聡君です。僕も聡君もウサギちゃんと志穂ちゃんと仲良くなりたいな」

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