かわいい君まであと少し
 少し項垂れている望月課長が面白くてかわいくて少し笑うと、望月課長は不貞腐れたような顔をした。
「志穂ちゃん、私は怜子だよ。れ・い・こ」
 志穂ちゃんはじっと私の顔を見つめると「れい」と言ってくれた。
「うん、“れい”でもいい。志穂ちゃん、私は誰?」
「れい」
 すごい、ちゃんと理解している。
「志穂、なんで怜子の名前は普通な感じで略しているんだ。俺も“ゆう”にはならないのか?」
「ゆた」
「ゆた、か。うん、志穂が“ゆた”がいいなら、それでいいよ」
 志穂ちゃんの中で望月課長は“ゆた”で決定らしい。
「よかったですね、かわいいあだ名ができて。私も“ゆた”って呼びましょうか? それなら呼べる気がします」
「怜子、楽しんでるだろう。絶対にダメだ」
「決めました。今日から望月さん改め“ゆた”にします」
 私が許可してもいないのに、勝手に“怜子”と呼んでいるんだから、こっちも好きに呼ばせてもらおう。
「ゆた、志穂ちゃんのエプロンを出すんで、絵本の続き読んであげて」
 絵本を手渡し、部屋の隅に置いたトートバックのほうへ動いた。
 背後から「やっぱり楽しんでるだろ」という声が聞こえてきた。
 はい、楽しんでます。
 望月課長に背を向けて、笑っていることがバレないようにしながら、エプロンやハンドタオルを取り出した。

< 63 / 170 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop