焦れきゅんプロポーズ~エリート同期との社内同棲事情~
思わず涙を零してしまった土曜日の自分を思い出す。


嫌だったわけじゃない。
ただ、あんなキスは久しぶりで……
勇希との間ですっかり恋を失っていたことを思い知って、悲しかった。
涙の理由はそれだけだ。


横顔を覗き込まれる感覚が嫌で、私は勇希から顔を背けた。
一瞬の間の後、頭上から深い溜め息が落ちてくる。


「……俺の方は……結構ドキッとしたんだけど……」


小さくボソッと呟く声が、とても不明瞭で聞き取れない。
私は黙って横目だけを勇希に向ける。
私の視線に気が付いて、勇希は口元を大きな右手で覆いながら、逃げるように顔を背けた。


「あのさ。今日話したかったのは、そんなことじゃなくて」


急に声を張り上げて、勇希はゆっくり低い天井を見上げながらそう言った。
ついつられて顔を上げる私に、軽く肩を竦める仕草を見せる。


「とりあえず、帰って来い」

「は?」


さっきも聞いた短い言葉を、今度は命令調で言いのける勇希に、私は本気で呆れて目を見開いた。


「帰って来いって言ってんの」


シレッと繰り返す勇希に、私はただ黙って立ち上がった。


なんかもう……仕事の時間を割いてこうして話をしてるって言うのに、とてもお話にならない。


けれど。


「待てって。ちょっと聞けよ」
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