焦れきゅんプロポーズ~エリート同期との社内同棲事情~
荷物を詰めた大きな二つのバッグを、ドサッと音を立てて通路に置いた。
両手を自由にしてから、バッグの中を漁って鍵を探す。
指先に触れた鍵を取り出して、ドアに挿し込もうとした。
その途端、中から大きくドアが開かれて、ぶつかりそうになるのを慌てて避けた。


「お帰り」


午後九時半を回ったばかりの時間で、勇希が帰って来ているとは思わなかった。
それどころか、ヒョコッと顔を出した勇希はシャワーも終えているのか、サラッとした髪がしっとり湿っている。


Tシャツにダボッとしたハーフパンツ。
私にとっては十分見慣れてしまったプライベートタイムの勇希だ。


私の方はすっかり夜の時間でも、この大荷物で歩き続けてうっすら汗ばんでいると言うのに。
どうでもいいところでもムッとしてしまうのは、何から何まで勇希の思うつぼになっていることを自覚しているせいだ。


交際七年目を迎えようとして、別れを決めて出て行ったはずなのに、気付けばたった五日で戻って来た。
こんなの今まででも最短だ。
しかも、『帰って来い』と言われはしても、迎えに来てもらわずに自分で、とか。


私を迎え入れるように大きく開け放したドアを、勇希が腕で支えてくれている。
通路に置いた荷物を再び持ち上げると、私は黙って勇希の横を擦り抜けた。
靴を脱いでいると、背後でドアが閉まって鍵を掛ける音が聞こえてきた。
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