焦れきゅんプロポーズ~エリート同期との社内同棲事情~
「お医者さん、なんて? ただの夏風邪?」


そう訊ねながら、勇希が身体を起こすのに手を貸す。
豪快に寝癖をつけた勇希が、小さくクスッと笑った。


「……智美、おかんみてえ……」


その言葉に、一瞬ズキッと胸が痛む。
けれど、今そんなことで傷付いて怒って言い合いをしてる場合ではない。


「ごめんな。仰る通り、ただの夏風邪。抗生剤もらって来たから、もう心配ないよ。熱もいくらか下がった」


勇希はそう言いながら、ちょっと痛そうに肩や腕の関節を摩る。
私は黙って勇希の額に触れた。
まだ少し熱があるけれど、朝ほど高くないのはわかった。


今度こそ本当にホッと息を吐いて、ゆっくりと立ち上がった。
そして、通り過ぎて来たキッチンに戻る。


「……お粥作るから、大丈夫そうならシャワー浴びて来て」


勇希に背を向けたまま、そう言った。
え?と勇希が聞き返して来る。


「勇希が好きな卵のお粥作るから。……明日は休むわけいかないでしょ? 勇希じゃなきゃダメな仕事もあるんだから」


調理台に、スーパーで買って来た具材を並べながら、つい素っ気ない口調でそう繰り返す。
視線を感じて顔を上げると、リビングのドア枠にもたれかかった勇希が、ジッと私を見つめていた。
少しだけ驚いたような丸い目が、まっすぐ私に向けられている。


「……ほら、早く」

「ん。……サンキュ、智美」


勇希は素直に私の言葉に従って、私の後ろを通り抜けて、バスルームに入って行く。
程なくして聞こえてくるシャワーの水音に耳を傾けながら、私はボンヤリと手元に視線を落とした。
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