半分のキモチ
「この年だから言えるのかもしれないけど、お前らの年の頃の思い出が一番強く残んだよ。楽しかったことも、辛かったこともな……」


そう言って俺から視線をそらす正也の横顔は、年の離れた同級生でも、クラスの担任の顔でもない。
昔を懐かしむような一人の男の顔だった。


正也にも当たり前だけど俺達と同じように迷って悩んでた頃があったんだ。


「だからかもな……お前らには後悔は残して欲しくないんだ。楽しかったと思えるなら尚更、フリはやめて欲しいんだ」

「フリ?」

「楽しいフリ、笑ってるフリ、辛いフリ、泣いてるフリ……楽しいから笑う。辛いから泣く。そんな純粋な思いでいられるのは、今だけだからな……」

「……」

「もし……笑うのに、泣くのに理由が必要なら笑ったり、泣いたりした後にくっつければ良い」


そしてロビーにある大きな時計に視線を向け「じゃあ、部屋に戻って飲み直すかな」と正也がソファーから立ち上がった。
俺は「あぁ」としか言えなかった。


完全に見透かされている俺の感情。
ハァーとソファーにもたれ天井を見つめた。


ずっと理由を探していたのかもしれない。
俺と宮本が関わることに。
ずっと名前を付けたがっていたのかもしれない。
俺と宮本の関係に。


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