小話置き場
先輩は絶対断らないという、いつもの根拠のない自信があった。
だから念押しとして上目遣いにガン見して彼を動揺させてみたりしたけど、彼の返事は予想と違うものだった。
「あー……明日から、しばらく一緒に帰れないと思う」
「え……」
思わず笑顔を消した私を見て、先輩が焦った顔をする。彼は私と出会ってから、随分と表情豊かになった。
「同じクラスの奴らにさ……中間テストまでの二週間、放課後に勉強見てくれって頼まれたんだ。もう今年受験生だし、内申に響くような成績は取れないって」
そうだ。
今は一月で、先輩は今二年生で。春から先輩は受験生。頭のいい先輩のことだから、成績の心配はないと思うけど。
頼まれたんだ。
あの汐見先輩が、クラスメイトに。
それで、それを断らなかったんだ。
「……そ、それはいいことですね!ぜひぜひクラスの方々と親睦を深めて下さい!」
精一杯明るい声と表情で言うと、先輩は心なしか驚いたように目を見開いた後、複雑そうな顔をして小さく笑った。
「うん。ごめん」
「いえいえ!なんだか安心しました。ちゃんと先輩がクラスに馴染んでるみたいで!」
ちゃんと本当の気持ちだ。
クラスメイトにお願いされて、そしてそれを先輩が断らなかったこと。
私以外には基本的に冷たい先輩のことを考えると、とても喜ばしいことだ。