小話置き場
「………いえ……」
思わず下を向く。
邪魔しちゃいけない。お気楽な一年生が乱入してすみません。
今日一緒に帰れますかって言おうと思ったけど、やっぱダメだよね。テスト三日前だし。
最近は私も、チョコちゃんと里菜と三人で勉強会をしている。色恋にかまけてないで勉強しろってんだ。これだから私という奴はいつまでも馬鹿なんだ。……仕方ない、諦めよう。
「……えっと、やっぱりなんでもな……」
「百合」
顔が見たくて。
声が聞きたくて。
そんな願いさえ叶えばいいやと思っていたのに、実際に彼を目の前にして名前を呼ばれたら、それだけじゃ全然足りないと思った。
「なんか用があって来たんでしょ?遠慮しなくていいから、なんでも言って。そうやって直前で逃げられるの、いい加減悲しくなってくるんだけど」
先輩の言葉に、う、と言葉がつまった。
今や私は立派な逃走常習犯だ。過去に何度先輩の教室を訪ね、中途半端な言葉を残し逃亡したかわからない。
とりあえず、言ってみるくらいはしようと思った。
この人がハナから私の言葉を否定するような人じゃないって、私がいちばん知ってるはずだろう。