最後のキス*短編*
「んっ、はぁ」
「…今日はやけに積極的だな?」
そのまま服の裾から侵入してくる手を私はおもむろに掴んだ。
なんだよ?良いところで止められ不満げな彼に笑顔を向ける。
「よく聞いてね、今のは最後のキス」
「は?」
「はい、これここの部屋の合い鍵。ちゃんと返したからね」
戸惑いの表情を浮かべる彼の手に彼の部屋の合い鍵を握らせた。
小さく冷たい、私たちを繋いでいたものはもうない。
主導権は全て彼に渡った。
3年前に渡されてからずっとカバンに入っていた鍵は持ち主の元へと戻っていったのだ。
呆然とした彼を残し私は一人、部屋を出た。
去るもの追わず、彼はきっと追いかけてこない。