ヴァイオレット
「上京…?」

梅の花が散り始めた頃、いつものように駅のベンチ前へ向かうと、雅人さんから突然告げられた。

「大学を辞めてきた。本格的に歌手を目指したいんだ」

雅人さんはエレクトーンを準備しながら、私にそう告げた。

「だから2週間後、ここを離れて東京に行こうと思う」

言葉が出ない。
なんて声をかけたらいいのだろう。

応援しないといけない。
でも行かないでほしい。

これから駅の前を通っても、雅人さんの歌声は聞こえてこない。

今日は歌ってるなって、心を弾ませることはもうない。

ここを離れてしまえば、もう2度と会えないかもしれない。

視界が滲み、ぼやけていく。
泣いてしまいそうになる。

でも私は、行かないでなんて言えるような立場でもないし、止める資格なんてなかった。

私は涙をがまんして、雅人さんの目を見て言った。

「頑張ってね」

それ以上の言葉は何も言えなかった。

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