ヴァイオレット
その日から私は、駅前には行かなくなった。
行けなかった。

幸い春休みで、部活もしていないので駅前を通る必要もなかった。

今日も雅人さんは歌っているのかな。
毎日19時になると、私は雅人さんのことしか考えられなくなった。

連絡先も交換していないし、住んでいる場所も知らない。

会わなくなってから気づいた。
私は雅人さんのことをあまり知らないということだ。

名前が大崎雅人。
20歳で、K大に通っている。

それが本当なのか嘘なのかすらわからない。

ただ本当なのは、切ない歌声。
あの優しい笑顔。

会う手段は、もう駅前に行くしかなかった。

< 12 / 24 >

この作品をシェア

pagetop