ヴァイオレット
そこには私の次に雅人さんに話しかけていた、あのスーツの女の人だった。

今日は仕事が休みなのかスーツではなく、赤いスカートに茶色のコートをを羽織っていた。

「恵美(めぐみ)さん…」

初めて普段着姿を見たけれど、スーツのときと印象が違い、一瞬誰かわからなかった。

「これ、すみれちゃんに渡してって頼まれてたの」

差し出されたのは、1枚の小さな白い紙だった。

「雅人さんからよ」

四つ折りにされた紙を開くと、そこには短い文章が書かれていた。

"応援してくれてありがとう"

雅人さんの歌声と同じ、綺麗な字だった。

「雅人さん、ずっとすみれちゃんのこと待ってたよ」

待ってた…?

「この2週間、歌い終わったあといつもすみれちゃんの姿を探してた」

これまでの3ヶ月のことが、走馬灯のように思い出される。

あいたい。

「雅人さん、19時2分の電車に乗るって」

19時2分……今は?
私はそでをめくり、左手首にはめた時計を見る。

針は19時1分を指していた。

「まだ間に合うかもよ。行かなきゃ」

恵美さんの言葉に背中を押される。

伝えたい。
雅人さんにわたしの気持ち。

「恵美さんありがとう!」

私はポケットからパスケースをとりだし、右手に握り改札へと駆け出した。
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