ヴァイオレット
雅人さんに出会って2ヶ月が経とうとしていた時だった。

私はいつものように雅人さんの歌声を聞きにきていた。

相変わらずの切ない声。
心にじんとくるメロディー。

出会った頃はマフラーが手離せないくらい寒かったのに、今は梅の花が咲き始めていた。

「今日も良かったです」

「ありがとう。ちょっと休憩しよっか」

私たちがベンチに座ろうとしていた時だった。

「あの」

私たちの後ろから女の人の声が聞こえた。
振り向くとそこには肩ほどのストレートの黒髪で、スーツの女の人が立っていた。

「いつも綺麗な声だなって思ってたんです」

やっぱり雅人さんの歌声は、駅を通りすぎる人達の心に響いていたんだ。

「言ったでしょ。みんな私と同じ事を思ってたんだよ」

私がそう言って笑うと、雅人さんは少し照れながら嬉しそうに笑った。
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