甘く苦い、毒牙に蝕まれて
気づけば私は、宮原さんにつかみかかっていた。
ここが教室である事も忘れて……。
「ふざけないで……」
「ちょっ、いたっ……」
「ふざけんなっ!この泥棒猫っ!」
丁寧にセットしてきたであろう彼女の髪の毛を思い切り引っ張った。
私が大きな声を出した事で、教室中の視線がこちらに集まっていた。
それでも、怒りは収まらない。
「ちょっとまひろちゃん、何してんのっ!やめなって……」
友人が止めようとするのも無視して、私は宮原さんにイライラをぶつけた。
「あんたが私から万桜を奪わなければっ……あんたさえいなければっ!」
「痛いっ……痛いってば!!」
「今すぐ万桜と別れてよっ!!彼を返してっ!!彼は私のっ……」
「まひろっ……!!」
万桜が、慌てた様子で私達の間に割って入った。
我に返った時、気づいた。
教室にいる人達みんなが、私を冷たい目で見ている事。
そして、宮原さんが泣いている事……。
「酷いよ、まひろちゃん……そんな事、言うなんて……私、奪ったわけじゃないのに……」
声を震わせて、泣く宮原さん。
あちこちから聞こえてくるのは「かわいそう」だの「笹川さん、最低じゃん」だの、宮原さんに対して同情しているような言葉ばかり。
どうして、私が悪いみたいになってるの?
「まひろ……律夏に謝れよ」
「万桜、違うよ……私が悪いわけじゃ」
「何が違うんだよ。これはどう見ても、お前が悪いだろ?いいから、すぐに謝れ」
「何で宮原さんの味方をするのっ!?私よりも、そんな女が大事だっていうの?」
「ちょっとまひろちゃん!さっきからいい加減にしなよっ!どう考えたって、悪いのはあんたじゃん」
友人も、万桜さえも、宮原さんを庇うの?
悪いのは私じゃない。
私は何にも、悪い事なんかしてない。
ただ、事実を言っただけ。