正義の味方に愛された魔女3

「えっと……。

赤信号でも車がいなければ渡ったことあるし…。

スーパーで『お一人様一点限り』って商品を、一度会計してからまた買いに行ったり…。

この前、親元に帰った時、仕事で迷惑かけてないか?って聞かれて大丈夫って答えました。万引き事件の後です。

あと、親にもうひとつ嘘つきました。
好きな人いるの?って聞かれて、いるはずないって…。

誰にでもある嫌な所、ありますよ。
気持ちと言葉にズレもあります。
やっぱり天使なんかじゃないでしょう?
もったいないのは私にとって隼人さんが、です」


一所懸命に話す沙耶ちゃんには悪いけど、『赤信号』と『お一人様一点限り』がツボに嵌まって、
笑いを噛み殺すのに、肩に力が入ってしまう……。


「うん、うん、そっかそっか……。
そういう風に話してくれる所がもう、ね。…ははは。
話してる時の気持ちと言葉にズレはなかったよ?
純粋で穢れを知らない天使な訳さ。
天然素材100パーセントなの。
店で初めて会ったときと同じだよ、楽しくて、嬉しいんだ」


《もしかしてこれは、バカにされているか、呆れられているか、からかわれているか……なの?》


「違うよ ……そういうところは大好きだよ……。

あ………沙耶ちゃん、耳が真っ赤だ。寒い?」


「あ、あっ、暑いんです……やぁっ!
は…隼人さん耳に何してるんですか?!」


「ん?…キス。したかったから。
可愛くて好きだなぁって思ったから。
ちゃんとしたキスはしないよ。
そう簡単に初めてをもらっちゃいけないよね」


《えっと……何を言ってるのかな?

口はダメだから耳?
で、ずっと抱きしめられてお話?
ずっとくっついて恋人同士の様な状態だけど……。

……隼人さんのこの好きは、ライクでしょ?
ラブじゃないから勘違いしちゃダメね…。

そういうところは大好き?そういうところって…自分で言ったのに…どういうところ?
うーん……》


「ぶっ…!
今度は沙耶ちゃんがぐるぐる考えすぎてるね。

これからさ、
愛してるって言えるようになるまで、ゆっくり時間かけてもいいかな……。

ちゃんと好きだよ。ライクでもないんだ。

簡単に手は出さないから。大切にするから。

あー、せっかく泣き止んだのにまた…」


「隼人さんっ……隼人さんが好きです。
こんな子供な私…でも、…大好き、なんですっ」


「ありがとう。俺も大好きだよ……」


駅前通りまであと少しの仲通りで
沙耶ちゃんが泣き止むまでしばらくそのまま、
小さな可愛らしい天使を、腕の中に大事に包み込んで佇んでいた。

体を通して伝わってくる素直で澄んだ心を心地よく聴きながら……。





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