課長の瞳で凍死します 〜Long Version〜
 やばい。
 課長って言ったの聞かれたかな、と思いながら、
「う、嬉しいです。
 五嶋さん」
と喜び直す。

 近づいたきたスタッフジャンバーを着たそのおじさんは、
「かなり釣れてますね。
 頑張ってください」
と笑顔で言い、雅喜となんだかわからない釣りの深い話をして去っていた。

 リールを巻きながら、雅喜が、
「お前、五嶋さんはどうだ?」
と言ってくる。

「は。無礼でしたか?」
と殿の前で控える草の者のように謙虚な姿勢で訊き返すと、

「せめてその……ま……
 名前で呼べ」
と言ってくる。

 雅喜さん、と自分で言いにくかったようだ。

 だが、こちらの方が言いにくい。

「言えませんよ~っ」
「なんでだ」

「恥ずかしいからですよ。
 かちょ……貴方が私を真湖りんと呼べないのと一緒です」
と言うと、違うだろう、という目で見られる。

「俺は名前では呼べるぞ、真湖」

「なんででしょう。
 そんなに味も素っ気もなく言われても、カップル的にときめきません。

 小学校の先生に叱られてる感じです」

 貴方の言い方に問題があります、とケチをつけてみた。

 それにしても、呼び方、雅喜さん以外ないものだろうか、と呼びたくなく考えてみる。
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